然る山林所有者との対話から    2008年6月

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今回は、以前に然る山林所有者の方と話す機会があったので、その時の事を書いてみたいと思う。



 或る山に行った時の事である。

 集落を過ぎ林道に差し掛かると、林道入り口に写真のような通行止めの立て看板があった。

 しかし写真のようにゲートのチェーンは外されており、車も通れるようだった。

 私はその場所に車を止めて周りを見渡してみると、少し後方の水田の中で作業中の二人の姿が見えた。

 それで私はその方達に林道の状況を訊こうと思い、車をバックで100mほど後退させて路肩に止め、車から降りた。

 その方達は道路から50m位?離れた水田の中に居られたので、私は大きな声を出して道路の状況を訊いた。




最初はお互いに大声で会話をしていたが、相手の方が大声を出すのに疲れたのか?、それとも作業が忙しいのか?、途中で返事が返って来なくなった。

それで私はその方達の所まで50m程あぜ道を歩いて、更に詳しい状況を訊きに行った。



そのお二人は私より少し御年配?の御夫婦だった。

薄く水を張った水田の中で、ふくらはぎ位まで抜かる泥土に素足を抜き差ししながら、かまぼこ型のビニール温室を作ってある処であった。

私がその場所まで行くと、その御夫婦は作業の手を止めて林道の現況等を詳しく教えてくれた。

その林道は、『去年の台風で土石流による道路崩壊が数ヶ所で発生し、登山口まで車は行けない!、

          しかし1番手前の崩壊場所までは車で通れるからそこに車を停めて、

          後は登山口まで林道を歩くしかないでしょう!』 との事であった。

『ビニール温室の中は何ですか?』 と尋ねると、『田植え用の苗を育てる所です!』 との返事が返って来た。

私には、『何処から来たのか?』 等を聞かれたが、その方達は他の登山者から聞いたその山の様子や他の情報も教えてくれた。(感謝!)

そう云う事で、私は1番手前の崩壊地点まで上掲写真の林道を車で行く事にしたのである。



 写真は枝を下ろす作業終了後に撮影したもの

 暫らく車を走らせると写真のようなトラックが停まっていて、

 その荷台の上で一人の男性が、荷台に積んだ枝を斜面に投げ落とす作業をしてある処だった。

 私は車の中から少し様子を見ていたが、その作業は暫らく終わりそうもなかった。

 そのトラックは通常の林道幅の場所に停まっていたので、そのトラックの横を通り抜ける事は出来なかった。

 しかし、そのトラックの少し後方には林道が広くなった車の離合場所が見えていた。

 それで私は車から降りて、通して貰えないか?を交渉に行った。




荷台の上で作業中の男性は私より少し御年配?のように見えた。

私はその方に、『すみませんが通して貰えないでしょうか?』 と申し出た。

するとその方は、『林道の入り口に通行止めの立て看板があったでしょう!』 と言われる。

私は、       『その立て看板は見ましたが、崩壊地点の手前まで車で行けると聞きましたので入ったのですが、通して頂けないでしょうか?』 と答えた。

そうすると、    『急いでいるのですか?』 と聞かれたので、『別に急いでいる訳ではありません!』 と答えると、

           『それでは、もう少しで作業は終わるので、それまで待って貰えませんか!?』 との事だった。

それで私は作業が早く済むように手伝おうかな!と思ったが、荷台の枝はそんなに多くは残っていなかったので、手伝うまでもないな!と思い、トラックの横で会話する事にした。

私は荷台の枝は植林で枝打ちした物と思っていたので尋ねてみると、そうでは無く近所の家の屋根に覆い被さっていた樹木の枝で、その家から頼まれて切り落とした!との回答だった。



上写真の林道下側(左側)の樹はまだ小さいが、林道上側(右側)の植林はかなり大きかった。

その上側の樹は植えてから50〜60年位経っている様な大きさに見えたので、『これらの樹は貴方のお父さんが植えられ樹ですか?』 と尋ねてみた。

そうすると、『これらの樹は私が子供の時に父親と一緒に植えた樹です!』 と答えられる。


  或る山で見掛けた気持ちの良い美林−1

 私が少し驚いていると、

 『私達が子供の頃は、林業の家の子供は皆小さい頃から家の手伝いをさせられていました!』 と言われる。

 そんな会話をしている内に、現在はこの辺り一帯のかなりの山林がこの方の持ち物である事等が分かった。

 そしてその方は作業の手を止める事無く、私に 『山登りですか?』 と尋ねられたので、

 『趣味と健康維持の為にしている山歩きです!』 と私は答えた。

 そうすると、『別に貴方に文句を言う訳では無いですが!』 と前置きしてから、登山者に対する不満を言われ始めた。




通行止めになっていた、この林道の舗装工事は数十年前に行われたとの事であったが、

         『その時の舗装費用は夫々の山林内を通る林道の距離と総費用を按分して、夫々の山林所有者が負担しました!』 、

         『その時の自分の負担金は500万円程でした!』 と説明された。

その後は毎年、山林組合?への組合費を納めると同時に、所有分の林道維持修繕等は自費で行うとの事であった。

トラックの少し後方に舗装が剥がれて直径50cm位の穴が開いていたが、それを指差しながら

         『あの穴も自費で直すのですよ!』

そして、    『都会の人達は自分の土地は塀で囲ったりして他人は絶対にその中には入れないが、自分達はそんな人達も受け入れている!』 、

         『あんな穴もそんな人達が車で来るようになってから多く出来るようになり、又路肩が良く崩れている!』 と言われた。

それから、   『タラの芽は1番芽だけを切り取らずに、タラの樹を折って採るので、樹が枯れてしまう!』

         『ウドは根ごと引き抜いて採るので、やはり翌年から出なくなる!』

その他には、 『こんな田舎では全員が顔見知りであり他人の物を盗む事は無いので、

          以前は田畑や山林の道具類はその場所に置いたままにして翌日も使っていた、しかし近頃はそんな事は出来なくなった!』

続けて、    『少し前の事だが自分が所有する竹林の中に、囲みを壊して登山者が勝手に入り込み、筍を滅茶苦茶に掘り起こして盗んで行った。

          そればかりかそこに置いていた筍を掘り出す道具類も全部盗んで行ったのですよ!』

その上に、   『車で林道を通りながら何処にでもゴミを投げ捨てて行くので、それを片付けるのが大変だし、非常に腹が立ちます!』 と云われる。

周りを見てみると、 (ペットボトル、空き缶、ビニール袋に入れられたゴミ) 等が林道脇や林道下に投げ捨てられていた。



 或る林道に捨てられていた家電品とマットレス

 ゴミに付いては随分前の事になるが、或る山でも同じような経験があった。

 その山は山林所有者宅の近くに登山口があり、その所有者の土地に駐車すると便利だった。

 それで私がその所有者宅に承諾を得に行った。

 そうすると、『つい先日にもそのように言って来た登山者達がいた。

         その登山者達はその夜はそこに泊まって、翌早朝に出発するとの事だった。 

          彼らが帰った後に見に行った処、駐車していた場所は綺麗だったので安心していたら

          直ぐ近くの谷にゴミをごっそり捨てていた!』 と言われてから


『貴方達がそのような事をしなければ駐車しても結構ですよ!』 と、釘を刺された事があった。

このように私達登山者は山林所有者には大変評判が悪いようなのである。

勿論、殆んどの登山者は 『山を愛で、山を純粋に楽しむ方達』 であると思う。

しかし、登山者の極一部にはそうでは無い人達が居る事も確かなのである。

このように、マナーの大変悪い登山者が極一部いる為に、圧倒的に多いマナーを弁えた登山者までもがその人達と一くくりにされて疑いの目で見られる事を

私は非常に残念に思っている。



話を元に戻すと、トラックの荷台から枝を投げ捨てながら前記のような 『登山者への不満や怒り!』 を吐き出して胸の中がスッキリ!されたのか?、

私に対して 『或る場所に台風等で倒れた材木をまとめて置いている、中にはかなり大きな材木もあり、家を1軒建てる分以上の量は有ります、

        もし貴方が要るならタダで上げますよ!』 と言われる。

私は     『材木はタダでも運搬費や製材費が掛かりますし、それに私には家を建てる予定はありませんので、折角ですが辞退します!』 と言って断った。

そんな事から、国内材木の価格の推移に話が発展した。

その方も近年の国内材木の安さを嘆いてあったが、最近は少し回復傾向にあるとの事であった。

私が後継者に付いて質問すると、『子供は都会に出ていて後継者は居ない!』 と少し寂しげだった。

作業が終わり、その方が少し後方の離合場所までバックされたので、私達は 『お世話になります!』 と笑顔で会釈してから通り過ぎた。



  或る山で見掛けた気持ちの良い美林−2

 山の専門誌等を見ると、『最近の(一部)登山者のマナーの悪さ』 への対策や対応として、

 或る個人の山では登山道の整備や清掃等をする為として 『入山料』 を徴収し始めたり、

 腹に据え兼ねて 『入山禁止』 の措置を取る所が有るようである。

 このように 『入山料』 を取られたり 『入山禁止』 になれば、結局困るのは私達登山愛好者なのである。

 今後、そのような山が増えない為にも、登山者の一人一人がマナーを守りたいものである。

 結局はそれが登山愛好者が求める、自由で気持ちの良い山歩きを続けられる事であり、

 マナーを守らなければそれは結局、その登山者自身が自分の首を絞める事なのである。


この文が一部登山者のマナー向上に少しでも繋がれば幸いです。

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